PERとは、企業の収益力(株主のために利益を稼ぎ出す力)に対する、株式市場の相対的な評価(相対的な割安度)をみるための投資指標です。
目次
PERの定義
PERは次のように定義されます:
ここで、純利益とは、企業が稼ぎ出す利益のうち、その株主に帰属するものをいいます。
つまり、純利益とは、『企業が株主のために稼ぎ出す利益の額』といえます。
ですので、PERとは、端的に表現すれば、その企業の株に投資をしたときに、投資額を回収するまでにかかる年数を表していると言えます。
例えば、1株当たり純利益(EPS)10円の企業が、株価=100円と評価されているとすると、PER=10となります。
これは、この企業に投資をしたとすると、投資額を回収するのに10年かかるということを意味しています:
(毎期の純利益は一定で、かつ、当期純利益は全額株主に配当として毎期還元されることを前提としています)
PERの理論値
また、PERは、「期待投資収益率(株主資本コスト)」と「利益(もしくは、配当)の成長率」がわかると、いくつかの仮定を置く必要がありますが、その理論値を次式から計算することができます:
このことは、次のようにして確認できます(PDFファイル参照):
PERが20倍より大きい銘柄 ⇒ 5%未満のリターンしか期待できない ⇒ 割高
PERが20倍の銘柄 ⇒ 5%のリターンが期待できる ⇒ 適正価格
PERが20倍より小さい銘柄 ⇒ 5%より大きいリターンが期待できる ⇒ 割安
と判断できます。
ただし、期待投資収益率や成長率を推計することは困難なため、実際には、PERの理論値(適正な水準)を計算することはしません。
となると、これでは、株価の割安度を判断(絶対評価)することはできません。
ですが、具体的な数字は計算できなくても、期待投資収益率や成長率の水準が大体同じくらいになりそうな銘柄のユニバースは、ある程度は想定できます。
例えば、「この業種であれば、大体同じくらいの期待投資収益率・成長率が想定できるだろう」という感じです。
「この銘柄の適正なPERの水準は15倍程度であるが、実際はPER=20倍だから割高である」
という感じ(絶対評価)ではなく、
「当時のPERが10倍なので、今のPERの水準(20倍)は、当時に比べると割高感がある」
「銘柄AのPERが10倍なので、PER20倍の銘柄Bは、銘柄Aに比べると割高感がある」
というような感じで使われます。
低PER効果
PERに関しては、低PER効果が知られています:
低PER効果 = PERの低い株の平均的なリターンが高いという現象
低PER効果は、一般には、投資家のミスプライスによって生じると考えらえています。
投資家は、成長性の低い企業に対しては成長率を悲観的に、成長性の高い企業に対しては成長率を楽観的に評価しがちである、ということが、その理由として考えられます。
- 低PER銘柄 : 成長率が低い銘柄 ⇒ 低成長銘柄に対しては、投資家は悲観的になり、成長率を過小評価する傾向がある ⇒ 低PER銘柄の中には割安な銘柄が多く存在する
- 高PER銘柄 : 成長率が高い銘柄 ⇒ 高成長銘柄に対しては、投資家は楽観的になり、成長率を過大評価する傾向がある ⇒ 高PER銘柄の中には割高な銘柄が多く存在する
このように、低PERという特徴を持った銘柄(成長性の低い銘柄)では、ミスプライスが発生しやすく、その株価は過小評価されやすい(逆に、高PER銘柄は過大評価されやすい)、とする考え方があります。
(もちろん、相対的に大きなリスクを負担したことが報われただけ、というケースも十分にあり得ます。)
PERの注意点①
低PER効果もあってか、『低PER銘柄=割安な銘柄』,『高PER銘柄=割高な銘柄』と見なされがちですが、常に、そのような関係がなりたつわけではありません。
PER(理論値)の式からもわかるように、PERの水準が低くなる要因には、成長率の低下と、リスクプレミアムの増大、とがあります。
したがって、低PER銘柄の中には、リスクの大きな銘柄も含まれています。
例えば、為替や世界景気の影響を受けやすい自動車株などは、リスクが大きいために、業界全体としてPERの水準は低くなっています。
このこと自体は、ミスプライスを発生させる要因ではありません。
また、成長率の低下によって、PERが妥当な水準まで低下しているだけ、ということもあります。
(その後、投資家が過度に悲観的になって、その水準からさらに下げて割安になる、という可能性はあり得ます)
このように、
「PERの水準が低い銘柄=リスクの高い銘柄」
「PERの水準が低い銘柄=成長率の低い銘柄」
となる(株価は適正な水準にある)場合も十分にあり得ますので、「PERの水準が低い」という理由だけで、『割安』と判断するのは適切ではありません。
PERの注意点② : バリュー・トラップ
PERは、株価が下落すると、分子部分が小さくなるので、値は低下します。
そのため、株価が下がってくると、以下のように、一時的に平均的な水準から乖離して、株価の相対的な割安度が高まったように見えます。
ですが、実際には、業績悪化を株価が先に織り込んでいただけ、というケースが多くあります。
このように、PERが平均的な水準から乖離して、将来、その水準に回帰することが期待されたとしても、常に、そこでリターンが発生するわけではありません。
PERの使い方や理論値を考えていたときは、一株当たり純利益(EPS)は適切な値が与えられていることが前提でした。
しかし、現実には、株価(マーケット)ではなく、使用したEPSの方が間違っていて、EPSの方が“修正”されるケースもあります。
(そのため、PERを使う場合には、EPSの“精度”を高める努力も求められます)
したがって、株価が下げてくると
低PERになってきた ⇒ 割安(お買い得)になってきた
と言われることも多いのですが、このような判断は、「PER」という投資用語を使ってはいますが
「株価が下がった ⇒ お買い得になった」
と短絡的に考えていることとまったく同じになってしまいますので、注意が必要です。
参考文献
- 吉野 『株式投資のための定量分析入門』 日本経済新聞社(pp.44-45)
- 伊藤・萩島・諏訪部 『新・証券投資論Ⅱ』 日本経済新聞出版社(pp.100-102, pp.133-135)
- 山崎 『ファンドマネジメント』 きんざい(pp.83-84, p195)
- モーニングスター『アナリストの視点(国内株式) PER理論の「限界」――割安な株式は「必ず」上がるか?』